札幌高等裁判所 昭和29年(う)156号 判決
按ずるに原判決の認定した事実は被告人の運転する自動車が百一度四十五分の角度に左折している地点に差かかつた際、かかる地点を通過するに際しては速度を減じて回転操作をする注意義務があるに拘らず被告人は漫然時速三十二粁のまゝ左折したため自動車が転落したというのであつて、つまり被告人が速度を減じなかつた点に過失を認めたものである。そうして司法警察員作成の渡辺金雄の第一回供述調書によると、当日保安隊の演習として対抗部隊及び実施部隊の二隊に分れ被告人の運転する自動車の所属する対抗部隊は、実施部隊の追撃を受けて上富良野市街に向つて進行中、右の事故がおこつたので右事故により負傷したものは右の演習に従事してその自動車に乗組んでいた保安隊員であることが明白である。しかしながら前記供述調書によると右の演習の指揮官である渡辺金雄は出発前に部隊全員に対し事故を起さないよう注意を与えた事実が認められ、また原審第五回公判調査書中千葉久雄の供述として「私はそこへ差かかる以前から運転手にカーブに差かかつても減速しないときは私が側でその都度注意していたのでしたがその時は減速傾向にあつたので注意もしませんでした」との旨、また「制限時速二十哩で指定された陣地に到着することになつたのです」との旨の記載がありこれによつて見れば被告人にとつて右事故の際業務遂行上速力を減ずることができなかつたと認むべき事情はなくまたさような上司の命令を受けていたものとも認められない。然らば被告人が原判示の如く速力を減じなかつたことは業務上正当な行為と云うことはできないし、また速力を減ずることは期待できないと云う筋合ではない。然らば事故の被害者が演習に従事中の隊員であつたとは云え、被告人はこれに対する傷害につき刑責を免れないものと云わねばならない。所論引用の保安庁法第五十一条の趣旨は職務の遂行に当然に伴う危険を回避し、その結果職務の遂行を怠ることを許さないと云うのであつて注意すれば避け得る危険に向つて猪突せよと云うのではないから本条を根拠として被告人に刑責なしとすることはできず、また被害者たる隊員がその危険すなわち負傷を甘受しなければならないとするいわれはない。以上のとおり論旨はすべて理由がない。